肛門及び周辺の症状には「肛門外科」

肛門外科のイメージ写真

肛門もしくは肛門周辺で起きたとされる症状や病気を中心に診療するのが肛門外科です。当診療科を受診される方の多くは、痔に関係する症状を訴える患者さまです。

ちなみに痔は日本人の約3人に1人の方が悩んでいると言われるほどの国民病です。
ただ肩こりや腰痛のように目立たたないのはデリケートゾーンでもあることから恥ずかしがって受診をためらっている方も多いとされています。
ただ放置し続けてもよくなることはなく、また肛門がんや他の病気の原因による一症状という可能性もありますので、症状を悪化させる前に一度当院を受診されるようにしてください。

肛門外科でよくみられる症状(例)

  • 肛門から出血がみられる
  • 肛門が痛くなる(持続的に痛む、排便時 等)
  • 肛門周囲がかゆい
  • 何かが肛門からよく飛び出てしまう
  • お尻がジクジクしている
  • 便に血液が混じっている(血便) など

肛門外科で扱う主な疾患

痔核

一般的には、いぼ痔と呼ばれます。
痔には種類として痔核以外にも裂肛(切れ痔)、痔瘻がありますが、その中でも患者数が最も多い疾患でもあります。
いぼ痔は肛門や直腸付近の一部血管が鬱血してしまい、それがコブのように膨らんでしまっている状態を言います。

なお発生部位によって、内痔核、あるいは外痔核と診断がつけられます。

内痔核

内痔核は、直腸と肛門の境目にある歯状線よりも内側にある痔核です。便秘、トイレでいきむ、同じ姿勢で長時間いるのが発症リスクと言われています。
ちなみに女性は妊娠・出産が引き金になることもあります。

主な症状ですが、発症初期は自覚症状がなく、排便時に出血が確認できるくらいです。
ただ病状が進行し、痔核が大きくなれば肛門から脱出するようになります。脱出間もない頃は、指等で押し込むことで中に引っ込むようになります。
ただ大きくなり過ぎると脱出したままの状態となって痛みがみられるほか、残便感なども現れるようになります。

なお内痔核は症状の程度によってⅠ~Ⅳ度に分類され、それぞれ治療内容も異なります。

内痔核の分類
(「ゴリガー分類」による)

  • Ⅰ度:肛門管内でわずかに膨らんでいる程度の痔核
  • Ⅱ度:排便時に肛門外に脱出するものの、排便が済めば自然に戻る程度の痔核
  • Ⅲ度:排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない痔核
  • Ⅳ度:常時、肛門外に脱出している状態の痔核

外痔核

外痔核は、歯状線の外側に発生する痔核です。
重いものを持ち上げるなど腹圧をかけやすい仕事をしている、座位の時間が長い間続くという場合に発症リスクが高くなります。この場合、痔核はむき出しの状態になるので、腫れや痛みの症状が現れます。
また皮膚が破れることがあれば出血することもあります。

痔核の治療について

内痔核では、先にも述べたように症状の程度によって治療内容が異なります。
軽度(Ⅰ~Ⅱ度)であれば、座薬や軟膏による薬物療法です。
また出血や薬物療法だけでは困難となればALTA療法などの硬化療法や痔核根治術(結紮切除)を行うこともあります。
Ⅲ度は保存療法で改善しなければ手術療法(結紮切除)、Ⅳ度の場合は手術療法(結紮切除)の適用となります。

外痔核では、患部を温める、薬物療法(軟膏や坐薬 等)などの保存療法が中心です。
ただ痔核のサイズが大きいなど上記の治療では改善が難しいとなれば、痔核を切開して血栓を取り除く手術療法を行います。

ALTA療法とは

痔の治療で行われる硬化療法のひとつです。主に内痔核の患者さまで脱肛や出血のコントロールが不良な場合に用いられる治療法です。

ひとつの痔核に対して、注射を4ヵ所打ちます。その際は局所麻酔下での施術となります。
注射後は、麻酔の影響がないとされるまで院内で安静にします。
使用する薬剤には硫酸アルミニウムカリウムやタンニン酸などが含まれています。これらの成分によって、痔核は硬化・退縮するなどしていきます。
このALTA療法の登場によって、以前であれば手術を要するとされたⅢ度の内痔核でも、この治療だけで済むというケースも増えてきています。

同治療によって痔核へと流入していた血液は減っていきます。それに伴って脱肛の状態が軽度になるほか、痔核そのものが縮小していきます。その後は発生部位に癒着して固定されていくので脱肛はみられなくなります。
縮小していくまでの期間は1ヵ月程度かかるとされ、その間は一定の間隔で通院していきます。

ちなみに同治療では、副作用がみられることもあります。
主な症状は、血圧低下、頭痛、食欲不振、肛門部の違和感、痔核の周囲の粘膜が硬くなることによる排便のしにくさなどが挙げられます。

裂肛

一般的には、切れ痔と呼ばれます。肛門の出口付近に傷ができやすいのが特徴です。
便秘が続いている状態で硬い便を排泄、下痢による炎症などによって発症するようになります。便秘体質になりやすい女性の患者さまが多いです。
主な症状は、排便時の痛みや出血です。

なお裂肛は急性裂肛と慢性裂肛に分けられます。
急性は排便時に出血がみられますが、紙に血がつく程度で、排便時に痛みも出ますが傷自体は浅いので治りが早いことも多いです。
この急性を繰り返した状態が慢性化です。再発するごとに傷は深く、広がるようになると潰瘍やポリープが発生するなどして、症状が進行すると肛門狭窄が起きるようになります。

治療の基本は保存療法です。主に軟膏や坐薬を使用していきます。
また便秘や下痢が原因の場合は、便通を改善する薬を使用するほか、生活習慣の見直し(食生活の改善 等)も行っていきます。
また症状が進行し、肛門狭窄がみられている場合は手術療法の適応となります。

痔瘻

一般的には、あな痔と呼ばれます。
歯状線の窪みを肛門陰窩と呼び、この部分に細菌が侵入し、肛門腺が化膿するなどして膿が溜まっている状態を肛門周囲膿瘍と言います。
同疾患は治る過程において膿が排泄されるようになるのですが、その際に瘻管が作られ、細菌が侵入した部分(原発口)とは別の出口(二次口)から皮膚に穴を開ける形で膿が排出されるようになります。
この原発口から二次口までトンネルのようにつながってしまった状態を痔瘻と言います。

主な症状ですが、肛門周囲膿瘍では、膿が溜まっている部位の痛みや腫れ、38度以上の発熱などです。また痔瘻になると、膿の排出によって下着等が汚れるなどしていきます。

治療に関してですが、肛門周囲膿瘍の状態で膿の量がそれほど多くない、もしくは自然に放出されてしまったという場合は、抗菌薬を服用していきます。
また膿の量があって、膿が排出されないという場合は、腫れている部位を切開して膿を排出します。その際は局所麻酔下で行います。
膿がなくなれば痛みなどの症状は治まっていきます。
ただ瘻管が残ってしまうとこれは自然と塞がることはなく、再発などの原因となるので、この場合は手術治療が必要となります。
手術内容については、患者さまの瘻管の状態によって、切開開放術、括約筋温存術、シートン法等が選択されます。